先日は、「省エネ等級」に関連して断熱性能の説明を記しました。
今回は地震に対しての基準である「耐震等級」等について記していきたいと思います。
「耐震等級」は、平成12年に制定された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で、建築主・購入者が、建物の耐震性の目安にするためのものとして定められました。
「等級 1」が、建築基準法で求めている耐震性と同等です。
「等級 2」が、建築基準法で求めている耐震性の1.25倍です。
「等級 3」が、建築基準法で求めている耐震性の1.5倍です。
更に詳しく解説を見ると、「建築基準法で求めている耐震性」「耐震等級 1」は、「数百年に一度発生する地震(東京では震度7程度)の地震力に対して倒壊、崩壊せず、数十年に一度発生する地震(東京では震度6程度)の地震力に対して損傷しない程度。」とされています。
実はこの点が問題で、「倒壊・崩壊」しなかった建物に住めるのかというと、建築基準法の考えでは、揺れても壊れないので避難する時間が取れるということを意味しているだけで、地震後も継続して住むことに関してはなんら規定していません。
震度6では、損傷しない程度とされていますので、地震後にも継続して住むことができます。
しかし、ここでいっている「震度」にも実は問題があります。
実は先ほどまでの震度は、昭和56年(1981)の「新耐震基準」での考え方になります。
平成7年に発生した阪神淡路大震災をうけて、気象庁は震度階級を見直しており「加速度」ベースで比較すると下記のようになっています。
新震度 | 旧震度・基準法・品確法 | ||
25〜80gal程度 | 震度4 | 震度4 | 25〜80gal |
80〜140gal程度 | 震度5弱 | 震度5 | 80〜250gal |
140〜250gal程度 | 震度5強 | ||
250〜450gal程度 | 震度6弱 | 震度6 | 250〜400gal |
震度6強 | |||
450〜800gal程度 | 震度7 | 400gal以上 | |
800gal以上 | 震度7 |
今一般的に考えられている震度6弱は、場合によっては昔の震度7に相当するのです。
新震度で震度6強や震度7の地震が発生すると、建築基準法で定める基準ギリギリの建物であると、「倒壊・崩壊」する可能性が出てきます。
建築基準法は最低の基準を定めていることと、気象庁の震度階級見直しに追従しなかったことからこのようなことになってしまっています。
(気象庁震度階級関連解説表では、「木造建物」の「耐震性高い」ものでも、震度7では「耐震性の高い住宅でも、傾いたり、大きく破壊するものがある。」と解説されています。※ここでの「耐震性高い」は、昭和56年(1981)以降の「新耐震基準」の建物ということです。)
これらのことから言えることは、阪神淡路、中越、中越沖、能登半島、東北地方太平洋沖(東日本大震災)、熊本等の地震発生とその被害を考えると、建築基準法等よりも余裕を持った耐震性能を持つ建物であるほうが安心であるということです。
今までのことを踏まえて、耐震等級を見直してみます。
「無損傷」について、
・ 耐震等級1、 80〜100gal=震度4〜5弱 (建築基準法同等)
・ 耐震等級2、100〜125gal=震度5弱
・ 耐震等級3、120〜150gal=震度5弱
まで「無損傷」となり、これを超えると「破壊」が始まります。
「倒壊・崩壊の可能性」について、
・ 耐震等級1、300〜400gal=震度6弱 (建築基準法同等)
・ 耐震等級2、375〜500gal=震度6弱〜6強
・ 耐震等級3、450〜600gal=震度6強
これを超えると「倒壊・崩壊の可能性」がでてきます。
「耐震等級 3」といえども、地震後も継続して住むことを考えると、決して楽観できる数字ではないことが分かります。
ただし、テレビのリフォーム番組でも良くあるように、基礎がしっかりしていない、筋交いが切れているといった耐震性の低い住宅でも、倒壊せずに立っています。実際には、建物は余裕を見て(造られて)いるので、これらの地震や余震に対しても耐えることができるように作られているのです・・・
命にかかわることですから、少しでも安全性を高めたいということであれば、耐震等級が高いに越したことはありません。
費用は大変かかりますが、「免震」にするといったことも考慮してもいいかもしれません。
地震後にさまざまな作業の拠点となる役所や大型公共施設、大規模建物、災害時医療を行う病院等では「免震構造」が取り入れられているということ最近良く耳にします。
参考: 官庁施設の総合耐震計画基準
参考: 免震構造により災害拠点としての機能を発揮した石巻赤十字病院
「耐震等級」については、以上で説明を終えることとして、どのように建物の耐震性が確保されているのかの話に移ってみたいと思います。
まず、建築基準法では、一定規模までの建物では、建築士に(大きな)責任・判断を任せています。
これを受けて、平屋や木造2階建てまでの建物では、簡便な「壁量計算」等で構造上の安全性の確認を建築士が行って耐震性能の確保をしています。
なお、木造3階建てや混構造を含むその他の構造の2階建て以上では、詳細な「構造計算」を行って、構造計算書を建築確認時に提出しチェックを受ける必要があります。
更に大規模な建物では、「構造計算適合性判定」も行うことが義務付けられています。(姉歯事件の影響ですね)
多くの戸建て住宅は、「木造2階建て」なので、設計士が地震等に耐えうる構造になっているのかを「壁の量」を基に計算・確認をします。
必要な壁量は、建物の面積とかかる重さによって決まってきます。
このときに重要なのは、壁量だけではなくバランスよく入っているかということもあります。
地震はどの方向から来るのか分かりませんし、建物一方に寄って入っていても地震の力をうまく負担できないのでXY方向に均等に入っていることが求められます。
しかし、よくある1階にリビングダイニングを配した建物では、多くの場合、大開口(と大空間)を取るために南面の壁量が少なく、かつ、建物中央付近の壁量も少ないということになります。一階に車庫を配置したプランも同様のことが言えます。
そのような建物の場合には、少ない壁量でも地震への強度を増すために「耐力壁」の倍率を上げて対処します。
その方法は、木造軸組み工法では筋交いを増やすことや、構造用合板を軸組みに固定して貼る等といった手法があります。なお、単純に柱を太くしても耐震性の向上にはつながりません。耐久性はあがりますが・・・
2×4工法は、そもそもが柱ではなく「壁」で建物が構成されているので、木造軸組み工法に比べて、壁量が多く耐震性が確保され易いです。
そもそもが壁を組み合わせているので、その壁を「強化」し5倍耐力壁等とすれば、更に耐震性を簡単に向上することができます。
そのため標準的な仕様・工法を守って建築された2×4住宅は、「耐震等級 3」を簡単にクリアできるといわれています。
我が家は、「耐震等級」は取得していません。 しかし、先日の記事のとおり、2×4工法で建築をされています。しかも、日当たりの問題もあり、リビングダイニングは二階にあります。一階は居室3室とトイレと物置・クローゼットなので、壁だらけです。地震については余裕を持って大丈夫と判断してよいようです。
等級を取得していないのは、壁量以外のその他の細かな規定を満たしていない箇所があるからのようです・・・
2016年4月14日から発生した熊本地震(2016)以降、本ページへのアクセスが増えていましたので、記事内容の確認・修正を行い、参考リンクを修正いたしました。
(京都新聞に2016/05/11 震度7の連続地震、耐震強度1.5倍必要 京都大解析 が掲載されて以降、特にアクセスが多くなっています。)
今回の熊本地震においては、2000年(平成12年)に行われた建築基準法施行令の改正後に建築された木造住宅が倒壊をして、「(新)耐震基準(かつ2000年基準)を満たした住宅が倒壊した!」と、大騒ぎをしています。
益城町での最大加速度は、前震で 1580gal、本震で 1364galを記録しています。(Wikipwdia 熊本地震(2016))
これを「気象庁震度階級関連解説表」にあてはめると、「震度7 (800gal以上)」を遙かに超えた揺れに2度も晒されたことになります。
現行の建築基準法(2000年の建築基準法施行令でも変わりません)の耐震基準では、「(旧)震度6
(300〜400gal)」を超えると、「倒壊・崩壊の可能性」が出てくるのです。
前震の1580galは、建築基準法の約4倍もの加速度です。倒壊しても当たり前の揺れです。(阪神淡路大震災は、818gal。 東日本大震災は
2933gal。)
このことから言えることは、そもそも、「基準がおかしい」のです。早く建築基準法などが改正されて、普通の住宅が、本当の「耐震性」を供えるようになってほしいものです。
p.s.
「法律通り、耐震基準を満たしています。」というセールストークで売られる家は、「(安くするために)法律を越えた耐震性を備えていません。」と言っているも同然です。
「東日本大震災(栗原市の最大加速度 2933gal)や、熊本地震(1580gal)のような大きな地震後、倒壊や大きな損傷をせずに住み続けられますか?」と聞いてみてください。「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」の「耐震等級3」を取れるような住宅を設計・建築できる会社であれば、きちんと説明をしてくれると思います。
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